リップクリームとスマホ
貴重な夜遊び日。友達数人との食事会のため、仕事を終えたあとよれよれ状態で表参道を歩く。途中でドラッグストアに寄り、いつも在宅ワークの時に使っているニベアの色付きリップに加え、メンソレータムのフラッシュティントリップを初めて買った。ドラッグストアを出たところで「そういえば今すでに、化粧もはげ落ちているだろうな」と思い、そのまま近くの建物の方に寄って、買いたてのティントリップを早速塗ってみることに。しかし壁際で目立たないように手鏡を出してリップを塗っていたら、「すみません」と若い男女が後ろから声をかけてくる。振り返ると、20代前半と思しきカップルがスマホを手にこちらを見て微笑んでいる。何かの勧誘だろうか、あるいは道案内をしてほしいと思っている外国人観光客だろうか、と反射的に思ったが、次の瞬間二人が「これ落としましたよ」と手に持ったスマホを差し出してくる。愚かなことに、私はリップを塗るため壁の方に寄っていったわずかな時間に、スマホを地面に取り落としていたのである。それぞれ韓国の男女アイドルのような髪型をした二人は、邪気のない笑顔で私にスマホを渡してくれた。肌は白くハリがあり、身なりもとてもおしゃれだ。一方の私はぼさぼさ頭にユニクロのコートで、化粧のはげた顔にメンソレータムのリップを塗っている。しかも渡してもらったスマホの画面にはTwitterが表示されていた上(何かにあたったのか、GROKの画面だったので助かった)、AirPodsで私がスマホから聴いていたのはゲーム実況である。すべてが表参道のイデアに相応しくない気がする。アイテムがチープだからという意味ではなく、何か根本的に、全体的に自分がみすぼらしく感じられて恥ずかしかった。おかげで、そのあとの食事会で友人たちがコートを脱いだ時にも、「みんなこんなにおしゃれなのに私ときたら……」と唇をかみしめてしまった。
今年は本気で肉体と身なりの改善に励みたい。お店の料理は美味しかった。メンソレータムのティントは肌に合わなくて唇が荒れた。