仕事の合間に気晴らしでパン屋に行く道中、また自分がヤーレンズについて考えていると気づいた。私は彼らのネタを見たことがなく、当然ファンでもなんでもない。ただ、最近読んだTBSラジオの記事が妙に頭に残っていて、ここ三日くらいやたらとその内容を思い出している。彼らは元々さほど良い関係性でもなかったが、コロナ禍の時期に他にすることがないからと、二人でただなんとなく会って会話を重ねていた時間を経て仲が深まったのだという。これ、すごく大事なポイントを含んだエピソードだと思う。目的なく集まり、他にすることがない状況で、何かを達成しなくてもいい会話を繰り返す。こういう時間は、小中学生の頃にはよくある。でも大人になるとなかなかない。何が一番ないって、「お互いに他にすることがない状況」が滅多にないのだ(片方だけ、はある)。だから本当にゆるい会話が成立せず、お互いが相手に対して気を許すモードを獲得できないのである。もちろん、コロナ禍を経てむしろ関係性が悪化して解散するお笑いコンビもたくさんいたのだろうけれど。とはいえ一定期間、無目的で不自由な時間を共有できた人間関係はやはり強いと感じる。”家族”というフィクションが強固なのもそのせいだ。パン屋ではベーコンエピとあんバターパンを買った。腹が重くなり、日中は他に何も食べないようにして過ごす。
ルッコラ
昨日行った「ウィーアーザファーム」でお土産にもらったルッコラを朝食に出す。多めのオリーブオイルでカリカリに焼いたベーコンを、油ごとふりかけただけだが美味しかった。歯応えがしっかりあって苦いのが良い。夫にも好評。「風立ちぬ」に出てきた、ルッコラサラダをむさぼり食べるシーンを思い出した。あまりあれは美味しそうに見えなかったけれど。仕事が今日も猛烈だったため、昼休みは気分転換に本屋を歩く。ビジネス書や美容本を見ると「もっともっと」が激しすぎてうんざりしてくる。そういえばルッコラの花言葉は「競争心」「私を見て」なのだそうだ。ルッコラの領域から逃げ、買うか悩んでいた宇野常寛の『庭の話』と、あともう一冊目についた人文書を買う。二冊で六千円台。本にそれだけの価値がないとは全く思っていないが、それにしても財布への打撃はなかなかのものだ。
ぎらぎら
久しぶりに夜の外出。夫に子どもをまかせて、渋谷で友人Hさん・Hさんの長年の友人Aさんと食事をする。全員広義の出版・編集属性の人間なので怒涛の勢いでコンテンツの話をし続けてとても楽しかった。この属性の人たちと話しているといつも感じるのだが、企画を立てて生きている人間は、新しい企画の話になるとスーッと独特のモードが起動する気配がして面白い。いや、新たに何かがオンになるというより、普段も“企画者機能”はオンになりっぱなしで、企画の気配をキャッチするとそこ以外の回路に流す電流が自動的に減少し、企画者としての機能だけがくっきりしてくる感じなのかもしれない。特に書籍の編集者は、企画の話になると目の奥が本当にぎらりとする。そのぎらぎらを見ていたら、私ももっと企画を作ろうという気持ちになった。
侵入
マメ氏一歳に夕飯を食べさせていた時に、玄関のドアが突如開いた。まったくもって夫が帰ってくる時間ではない。そこに立っていたのはお隣に住む気のいいおばちゃんで、二人で廊下を挟んで硬直。つまり私はドアの鍵をかけ忘れていて、向こうは自分の家と間違えてうちのドアを開けたのだ。向こうもおそらく、同じフロアに住む親族の元に行って戻るというラフな外出だったため、自宅のドアに鍵をかけていなかったのだと思われる。おばちゃんは「ああっごめんなさいね!!喋りながら歩いてたから間違えちゃった!!」と飛び上がって恐縮し、私は私で「わーっすみません、鍵をかけ忘れたりして!!」と叫んだ。食卓に戻ったら、マメ氏がしばらくドアの方をちらちら見ては困ったような顔をしていたので面白かった。幼児なりに異常事態を感じたのだろう。実際、「第三者が予想外に自宅に侵入してくる」展開はものすごく怖い。ほんとうにコンマ数秒だが、犯罪者の可能性も頭をよぎった。マメ氏が食事を食べ終わるまで心拍数が跳ねたままだった。あれが犯罪者だったら、私はすぐにマメ氏を庇って逃げられただろうか。いろんな展開を考えてしまう。
1825日
夕方、保育園にマメ氏1歳を迎えに行き下駄箱前で靴を履かせていたところ、同じ園の女の子が「この子かわいい〜」と話しかけてきた。何歳? 名前は?と訊ねられ、1歳だよ、マメだよ、と返す。お姉ちゃんは何歳? と訊いたら「5歳」とにっこり。おしゃまな5歳氏は、壁にもたれながらいろいろと話してくれた。「あのねえ、昨日はキミボク会をしたの」「キミボク会?」「キミボク会。みんなで集まってね、お菓子を食べながら映画を観たの」うーん、親睦会、か? 「いいねえ、マメ氏もそういうことしたいね」「この子は入れないよ。だって女の子だけのキミボク会なんだもん」「そうかあ、残念だね」「でもね、DVDを再生できるのはおじいちゃんだけだから、おじいちゃんだけは一緒に観たの」「なるほどねえ」「(マメ氏を指差して)君も大きくなったらそういうことができるような人になるといいよ。でも、大きくなるには1825回も寝ないといけないよ」「たしかにそうだね」。たぶん彼女の親御さんが、5歳になるまでの日数を教えたのだろう(正しくは1826日?)。考えてみると、マメ氏はまだ生後500日くらいで、私は13860日くらいだ。なんという隔たり。私も、生きてきた日数の近い人たちと久しぶりにキミボク会をしたい気持ち。マメ氏は私たちのやりとりの間、ずっと怪訝な顔でたたずんでいた。
銀杏
「仮面ライダーガヴ」を観たあとマメ氏(一歳)を連れて外出。マメ氏が歩くようになってからというもの、土日の日中は外出してばかりだ。徒歩圏内に飽きたため、電車に乗って少し離れた街へ。駅ビルの中の無印良品で私の靴下を買い、書店で本を見る。思想・評論本の新刊で欲しいものが何冊もあるが我慢。マメ氏は、幼児本コーナーの車の絵本に夢中。ページを繰っては「ぶっぶっじゃ……(消防車)」と可愛く呟いていた。そのあと一休みしようとパン屋カフェに入ったら、お洒落でリッチなパンばかりで、マメ氏向きの単純なロールパンなどがない。なかば仕方なく、全粒粉の食パンを買ってちぎって渡したら喜んでいた。私も残りを食べたが美味しかった。全粒粉パンや黒パンを食べると、「本当に食べたかったのはこっちだ」といつも思うが、近所で売っていないのですぐいつもの白いパンに気持ちが流れていってしまう。
カフェを出た後は、近くの銀杏並木を二人で歩く。マメ氏は降りしきるイチョウの葉に大喜びで、落葉を手に持ってキャッキャとはしゃいでいた。空気はマメ氏の頬が赤くなる程度に冷たく、空は濃い水色で、イチョウはくっきりと黄色かった。胸がつまるほど良い光景だった。自分の好きにできる時間が少ないことへの葛藤も吹き飛ぶ。
20年
数行だけの日記なんかを気楽に書き散らす場所がほしくて、とりあえず放置していたWEBサイトを多少いじってみた。カスタマイズ項目の多いテンプレートを使用しての、2時間くらいの突貫工事。Twitterでもblueskyでもnoteでもないな、という日々のことはここに書こうと思う。サーバーやWordPressの更新期限を久しぶりに確認したら来年の3月が切替タイミングだった。確認してよかった。
サイトのデザインを決める時、高校生の時に運営していたサイトと近い色を使おうと思った。ちょっと緑がかったグレー。当時は「畳色」と呼んでいた。20年ぶりの畳色。しばらく使っていなかった畳の客間を片付けて、さてどう使おうと考えているような気持ちだ。